【出口戦略】資産運用前提の場合の年金受給の繰り下げ/上げの損益分岐点

資産形成&節約
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皆さんは資産運用の出口戦略は考えたことありますか?私は正直あまりありません。以前にも出口戦略をテーマに記事を書きましたが、それも保有する資産だけの話でした。もし興味あればその記事もご覧ください。

一方で、資産運用における出口の話は”保有資産のみ”で語られるものではありません。最近話題の書籍”DIE WITH ZERO“にあった一節には以下のように保有資産と2つの保険で設計するようにすべきとの記述があります。

それは、生命保険と年金という対にある”保険”の存在です。生命保険は早死にしたときに資産が足りなくなるのを補うもので、逆に年金は長生きしたときに資産が足りなくなるのを補うものという解釈です。ある意味当たり前なのですが、あまり年金を意識したことがなかった自分にはハッとさせられる意見でした。

そして、その年金の重要性はインデックス投資の父である John Bogle氏も著書「インデックス投資は勝者のゲーム」の中で以下のように述べています。

これは米国だけではなく、日本人にも当てはまる話です。日本でも現在は65歳を基準にして繰り上げ受給は60歳から、それ以降も繰り下げ受給をするかが選択できるようになっています。もちろん、繰り下げた場合は月額の受給額は増えますが、一方で受給できる期間は減るというトレードオフの関係です。

というわけで、今回はこの繰り上げ/下げ受給総額をどのように考えるべきかを調べてみたいと思います。この記事がこれから出口戦略を考える方の参考になれば、それ以上にうれしいことはありません。

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※23年2月17日追記:22年4月の改正を反映しました

最初に公開した記事の計算結果が古い情報を元に作成していました。2022年4月より年金制度が改正されて、繰り上げ受給した場合の減額率が減少(繰り上げがお得側)しているそうです。

年金機構ウェブサイトより引用

以下の記事のグラフは上記変更を反映して修正しました。以前に掲載していたグラフよりも繰り上げ受給が有利側に倒れていると思いますので、確認してみてください(追記終わり)

一般的に論じられる損益分岐点

年金の繰り上げ/下げ受給額の差は他サイトでたくさん説明されているので割愛します。だいたいは以下の損益分岐点が示されていることが多いです。

上図は65歳を基準にもらえる年金月額を100と置いた計算です。60歳に繰り上げた場合だともらえる月額は減るので、年月が経てば受給総額は82歳過ぎで逆転します。一方で70歳に繰り下げた場合も、82歳付近で65歳から受給する場合を追い抜く計算です。22年4月の改正により、繰り上げ/繰り下げともに65歳と同じ点でクロスするようになりました。このようにして、一般的には”長生きするほど繰り下げ受給が得”というのが、この年金受給の繰り上げ/下げの要点になります。

ただ、僕は上記の損益見積には大事な観点が抜けていると思うのです。それは「割引現在価値」という考え方です。

ファイナンス理論においては、将来もらえるお金と手元のお金は同じ価値ではない、という考え方が一般的にあります。手元のお金はすぐに投資に回せますが、将来のお金は何も使えません。たとえば投資で得られる期待収益率が1%の見込みがあるなら、将来もらえるお金はその収益率を割り引いて価値を比較しないといけない、というものです。

前述の損益分岐点は、繰り上げてもらえるお金の価値と繰り下げてもらえるお金の価値を等価に置いています。本来ならば早くもらえるお金はそれだけ価値あるもののはずです。消費するお金が同額であれば、年金が入ったぶんはメイン資産の取り崩しは減るはずですからね。

リタイア後の運用利回り狙いを使って計算してみよう

ぼく自身はリタイア後も資産運用方針を変えるつもりはありません(インデックス投資を継続します)。ただ、それはセオリーからすると違っていて、一般的には出口に向けてポートフォリオのリスクを落としていくのが基本です。

たとえば、楽天のターゲットイヤーファンドは以下のような推移で徐々に株式比率を下げていく戦略をとっています。これは債券でリスクを調整していますが、別に現金でリスク調整するでも構いません。やってることは同じです。

皆さんのリタイア後は少なくともリスクを下げていることが多いでしょう。なので、その時の資産運用利回りは1%〜2%くらいかもしれません。人によっては4%という人もいますよね。ということで、その期待利回りは人それぞれとして、いくつかパターンを計算していきます。

まずはいちばんありそうな期待利回り2%の場合を計算したのが上図です。わずかに線が指数関数的に上昇しているのがわかるでしょう。それにつられて損益分岐点も冒頭の普通の計算に比べて後ろ(82歳→85歳)に移動しています。たった2%の運用利回りでも、これくらい結果に差が生まれるのです。

次に利回りを4%にしてみました。インデックス投資全力を継続する方ならこれくらいの結果を期待してもいいかもしれません。これで見るとさらに損益分岐点は後ろにスライドしていますね。22年4月の改正によって、繰り上げ受給がかなり有利になりました。もし期待収益率を4%に設定するならば、60歳に繰り上げた方がいいでしょう。老齢年金に4%は個人的には攻めすぎな気はしますけどね。

さらに株式の超長期リターンである6%程度の利回りを仮定するとこんな感じになりました。もはや繰り下げ受給は意味をなしていませんw 積極的に繰り上げすべきのように見えますが、まあこの6%というリターンは冒頭の年金が”長生きのための保険”という役割を思い出せばやりすぎなのは自明です。

年金は長生きする保険だから平均ではなく最頻値で見たほうがいい

男女共同参画局ウェブサイトより引用

というわけで、基本的には年金の繰り上げ/下げは自分ポートフォリオの期待収益率と何歳まで生きそうか?の2点で決めればいいというのがわかりました。後者を判断するのがいちばん難しそうですが、それこそ統計データくらいからえいっと決めるしかありませんね。

上図は日本人の寿命分布を示すものです。平均寿命が80歳前後、というのは誰しも知っていることだと思いますが、分布がこんなに若い側に裾野を持つ形状になっているのは実感なかったんじゃないでしょうか?少なくとも私はありませんでしたw

これを見つつ「年金は長生きの保険」という考え方に沿うと、ぼく自身は最頻値の85歳あたりまで見ておけば十分かな〜と思いました。85歳以上生きたら、まあ残念ってことでw それくらいの年齢になってから金がたくさん余っていても、どうせやれることはもうあまりないでしょう。

で、結局どうするか?

僕自身は死ぬまでインデックス投資(株100%)でいくつもりでいますが、期待収益率については安全目に設計しておきます。さすがに保険の意味をなすものに、皮算用やりすぎは危険ですから。

ということで、期待収益率2%で年齢85歳までとすると損益分岐点は以下のマップから60〜65歳受給でOKという結論が導かれます。70歳からに繰り下げても、もうヨボヨボで出歩けなくなっているという想定です。これなら繰り上げようかな〜と僕自身は思いました。皆さんはどう思いますか?

結論:未来と現在のお金の価値は等価ではない

ここまで年金をネタに色々と述べてきましたが、この記事で最も言いたかったのは上記の事実です。この錯覚を利用した金融商品というのはたくさんあります。たとえば積立型の生命保険や学資保険なんかはその典型です。

例えば一番人気の学資保険を調べてみると上のようなプランがおすすめされています。200万円相当の貯蓄保険機能を備えながら、もし死ななかったら22年後には14.7万円増える。お得でしょ?というもの。ただし、その損得勘定からは”時間を挟んだお金の価値が変わる”観点が抜けています

※死亡保障の効果を同等になるように補正計算し直しました(23年2月17日差し替え)

例えば、同等の生命保険をつけて22年間を同じ元手で運用した結果を上に示しています。月1000円の生命保険は入院保障もついていますから、圧倒的に学資保険に有利な計算をしていることに注意してください。(YouTube動画のグラフと異なり、補償額が同等になるように保険料を補正した計算をしました)

それで見ると、22年後に14.7万円増える計算は0.7%の運用に相当します。もし入院保障が無い生命保険があったとして見積れば実質的な学資保険の運用利回りはさらに下がるでしょう。そして保険会社はこの利回りよりうまく運用して、従業員に給料出した上で利益を得るのです。

消費者側は「現在と将来のお金の価値は同じ」と思っているから、商品をお得と感じます。一方で保険業者は「現在と将来のお金の価値は異なる」と思っているから、その消費者から預かったお金を運用して利益を出しているわけです。商売ですから、消費者側だけにメリットが出る商品なんてありえません。これらを定量的に把握した上で学資保険を選択するのは全く問題ありませんが、何も考えずに”学資保険や積立型生命保険がお得”と思っていたのなら、その意識は改めたほうがいいでしょう。

僕自身は保険(生命保険や年金)と貯蓄(メイン資産)をごちゃ混ぜにするような商品は好みません。因子を独立で設計できないために、自分の資産設計が難しくなりますし、知らないうちに業者に機会を持っていかれるからです。

これもマネリテの一種だとは思いますが、お金を時間軸でとらえるのが重要ではないでしょうか?まあ年取ってもリスクとった利回り運用を考えたくない、という感情はあるとは思いますけどね。

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おまけ:資産運用おすすめ書籍

僕が実際に読んで「ほんとうに良い本だなぁ〜」としみじみ感じた名著をご紹介します。どれもめちゃくちゃ良い本ばかり。インデックス投資を始めたての方におすすめです。

以下の中にはKindle Unlimited(月々980円 読み放題)のサービスで利用できるものもありますのでチェックしてみてください。Kindle Unlimitedは無料期間もたまにあります、いつかはわからないけど。

2024年の年初に亡くなられた山崎元さんの遺作。内容は父から息子への手紙をイメージして、資産運用や生き方のアドバイスをおくるというもの(実際に送られた手紙の内容もあります)。涙なしには読み切れない名作でした。投資における主張はいつもの著者のものと全く同じ。ブレないところが山崎さんの良さですね。ぜひ読んでもらいたい一冊。

かつて日本の長者番付で一位になったサラリーマンとして話題になった清原達郎氏の初めての著書。これまでメディアにほとんど出てこなかった氏の赤裸々な体験談が多数載せられています。内容は初心者向けではありませんが、どこにでも溢れているインデックス投資を勧めるだけの本に飽きた方にはとても面白いはず。かく言う私もその一人(笑)純粋な読み物としてとても面白いです。

これは最近複数の視聴者さんに紹介してもらって購入した本です。主張は題名どおり「余剰資金が出たら即刻インデックス投資せよ」というもので、僕も思想とほぼ一致しています。また、前半部分では「節約には限界がある」「収入を増やす努力をしよう」という主張もされていて、その辺も共感できる部分は多いです。とてもいい本だと感じましたので、よかったら手にとってみるとよいかと思います。

これは最近視聴者さんに教えてもらった本です。株式投資や資産運用の考え方を学ぶのに、とても素晴らしい名著だと思いました。著者はインデックス投資にも精通していることが伺える一方で、各個人の資産運用は人としての合理性も考慮すべきと説いてます。株式投資のリターンは「リスク(値動き)の対価」をわかりやすい例も含めて明示してくれていて、投資初心者の方にぜひ読んでみてもらいたい本ですね。

これは僕が最近読んでよかったと思ってる本です。マクロ経済における金利の重要性を懇切丁寧に説明してくれています。金利が経済の基本であることを再認識させられました。初心者でも読みやすいように書かれていて、とくに予備知識は必要ありません。投資タイミングに活かせるかと言えばそこは同意しかねますが、金利による経済の定性的な動きを理解するのはこれで十分と思いました。

米国の著名投資家ハワード・マークス氏の著書で、彼の著書はなんとあのウォーレン・バフェットのお気に入りらしいw バークシャー・ハサウェイの株主総会でこの本を配ったというウワサも残っています。ハワード・マークス氏自体はインデックス投資にも一目を置くアクティブ投資家で、市場平均に勝つのは難しいと認めつつもどうすれば勝てるか?を色々とアドバイスしてくれる本です。

僕が一番好きな本。難しい数学的な知識を必要とせず、現代ポートフォリオ理論(≒ランダムウォーク理論)をかじれます。正直な感想を言うと全ての書いてることが興味深かったわけではありません。なので隅々まで読んだわけではないですが、理論のところはとてもわかりやすいのでおすすめです。これ読んでからWikpedia見たらだいぶ理解が進みました。

上記の本に加えてもう少しファイナンスを詳しく知りたい方向けにおすすめです。CAPMの考え方やそれをもう一歩発展させた3ファクターモデルのことも理解できます。ほかにもプライシング理論やリスク管理などの基礎知識もこれで十分わかるかと。

インデックス投資の名著中の名著です。個人投資家にとっての投資は「ミスった者が負ける」敗者のゲームになった、というのがタイトルの由来。ここで言うミスとは、市場動向に動揺して売買してしまうことを指します。いいからインデックスホールドしとけ、という本。

インデックス投資の父でありVanguard創業者のBogle氏の名著です。僕が最も尊敬する偉人でもあります。その先見性と残された功績には尊敬の念しかありません。内容はインデックス投資のベーシックな内容ですが、後半には債券との組み合わせ論などにも言及されています。全部が全部同意見というわけではありませんが、インデックス投資を志す者であれば必読書とも言ってよいかと。

ランダムウォーク理論(株価の動きはわからないという前提を置く理論)について、歴史を交えて語った本。これも名著と言われています。理論の概念はざっくりとわかるかと。歴史の部分が長くて、そこは読み飛ばしました。

本をほとんど読まない僕が唯一知ってる作家さん、橘玲さんの本。とても読みやすい文章で書かれていて、こんな文が書きたいなといつも思ってます。僕が海外株を中心に買っているのはこの本の考え方に近いです。

この本は僕が初めて読んだ投資関連の書籍。当時、個別株で失敗し、偶然思うがままに買い付けた米国株インデックスETFに出会い、それにいい感触をもっていました。その感触を自信に変えてくれた本です。

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